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2009.01.17 (土)

「日本を歴史の加害者とするためか 原書の一部を割愛した岩波文庫の訳書」

『週刊ダイヤモンド』   2009年1月17日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 772

64年前の1945年、広島、長崎に原爆が投下され、日本が瀕死状態にあったとき、「朝日新聞」は8月14日の社説でこう書いた。

「すでに幾多の同胞は戦災者となっても、その闘魂は微動だもせず、いかに敵が焦慮の新戦術を実施しようとも、一億の信念の凝り固まった火の玉を消すことはできない」

一方で、日本政府内では同年8月9日から10日にかけてポツダム宣言受諾と降伏に向けての動きがあわただしかった。そして、『実録朝日新聞』(58年発行)によると、「新聞社にだけはこの情報が入っていた」。

つまり「朝日」は、日本降伏の可能性を察知しながら報道せず、国民に“微動”だにしない“闘魂”を求め、一億総国民が“火の玉”となって戦い続けよと社説で檄を飛ばしたのだ。

これらの記事をまとめた『読んでびっくり朝日新聞の太平洋戦争記事』(安田将三、石橋孝太郎著、リヨン社)を「朝日」は著作権を楯に、絶版に追い込んだ。不都合な歴史を日の下にさらしたくないため、陰に陽に圧力をかけたといってよいだろう。歴史を、特定の価値観に基づいて歪曲することは、戦後の日本において巧妙かつ執拗に行なわれてきた。今回本稿でご紹介するのは満州族のつくった清王朝、その最後の皇帝となった溥儀についての著作、『紫禁城の黄昏』の歪曲である。

皇帝溥儀の家庭教師だった著者のR・ジョンストンは、同書を34年に発表。半世紀以上後の88年に入江曜子、春名徹両氏の訳で、同書は岩波文庫に加えられた。さらに17年後の2005年、同書は渡部昇一氏監修、中山理氏訳で、今度は祥伝社から出版された。

岩波文庫版の『紫禁城の黄昏』は、どうしても読者にジョンストンへの否定的な印象を与えてしまう。たとえば訳者は、ジョンストン作品では「巧妙に作為的な説明のしかたがされている」とし、ジョンストンについては、「自己にたいする過大評価や子供っぽい見栄あるいは思い違い」「意識的に幻想を生み出す装置を作って見せていたジョンストン自身が次第にみずからが作り出した幻想のなかに取り込まれていった」などと批判する。

否定的なこの解説はいったい何故か。渡部氏監修の『紫禁城の黄昏』が答えを出している。「まえがき」の冒頭で「『紫禁城の黄昏』が、極東軍事裁判(東京裁判)に証拠書類として採用されていたら、あのような裁判は成立しなかったであろう」と喝破した。

ジョンストンは繰り返し、国民党(蒋介石)や共産党(毛沢東)は漢民族であり、清朝は満州族の王朝だったことを指摘し、両者を鮮明に区別することの重要性を強調している。そのうえで、満州人の王朝が黄昏時を迎えたとき、父祖の地の満州に戻る可能性について、彼らのあいだで当時、どのような議論があったかを詳述している。ジョンストンが溥儀の保護を求めて日本公使館を訪れたときの芳沢謙吉公使や日本政府の逡巡についても詳しい。

「(溥儀の)側にいたジョンストンの記述ほど信用なるものはない」と渡部氏は評価したが、その記述は、日本軍が無理やり溥儀を囲い込んで満州国独立を画策したなどという戦後日本に蔓延する見方を、説得力を持って否定するものだ。つまり同書は、東京裁判史観の日本悪者論を否定する内容なのだ。

岩波文庫版では、右の内容を描いた第16章は丸々、省かれた。第1章から第10章もすべて落とされた。結果、国民党や中国共産党にとって都合のよい内容となった。まさに、それこそが岩波版訳書の目的であろう。

この種の歴史の歪曲で日本人の歴史を見る目が曇らされたからこそ、私たちは、主張すべきことも主張できないでいる。結果、外交、海、陸、全分野で日本は侵蝕されつつある。この危機の本質に気づいて初めて、日本の再生が可能になると、私は痛感している。

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トラックバック: 3件

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    トラックバック by phrase monsters — 2009年01月17日  13:20

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    トラックバック by phrase monsters — 2009年02月04日  09:26

櫻井よしこ氏がネット新番組の発表をいたします。
「日本を歴史の加害者とするためか 原書の一部を割愛した岩波文庫の訳書」

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